四百年の恋
 「私も本音は、気が進まぬ。姫の住むこの地が危険にさらされた時には、最前線に立つのも厭わないのに」


 「おやめください!」


 姫はつい、大きな声を出してしまった。


 「戦は……、嫌です」


 「姫は、天下取りには興味はないのか?」


 「最小限の生活が保障されるのならば、それで十分でございます。無理を重ねて領土拡張政策を続けても、絶対に長続きしません」


 「私も同じ考えだ」


 冬悟は答えた。


 「この福山の領民が飢えることのないように生活を安定させ、周辺諸国と仲良く暮らしていけるのなら、それで十分だと思う」


 「そうです。それで十分なはずなのに……」


 なぜ人は、飽くなき欲望にとらわれるのか。


 「そして私は、姫がそばにいてくれるのならば、それで十分だ」


 その言葉を合図にしたかのように。


 冬悟は姫をそっと抱きしめた。


 「冬悟さま……」


 突然のことにためらう気持ちもあったものの、姫はその腕の中が非常に居心地がよく、黙って身を委ねていた。


 「姫、戦を終えて帰国したら、正式に私と結婚してほしい」


 これまで二人は、時折会って話をするだけで、指一本触れたことはなかった。


 段階を経て、ついに結婚の申し込み。


 姫はずっと心待ちにしていたはずなのに。


 「お受け……できません」


 冬悟の腕が、ぴくっと動いた。
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