四百年の恋
 「え……」


 姫は耳を疑った。


 (嬉しい・こんな美しい人に望まれるなんて。でもそれは不可能なこと)


 「無理です……」


 姫は冬悟の手を離し、背を向けた。


 「なぜ無理と決め付ける?」


 「殿が……お許しになりません。周囲の誰も」


 「兄上は関係ない。私は後継ぎになるつもりもないのだし、結婚相手は私が決める」


 「冬悟さま」


 「心配しなくていい。私が名護屋城に赴いている間、姫は実家に戻って、おとなしく花嫁修業をしていればいいんだ」


 再度抱きしめられた。


 「私は名護屋城で、しっかりと勤めてくる。太閤の信頼を得れば、帰国してからも周囲に信頼される人間になれるだろう」


 戦場に赴くわけではないとはいえ、愛する人が戦に行ってしまうのは、やはり不安で。


 「私も、ついていけるのなら」


 姫はふとつぶやいてしまった。


 「共に行くと申すか」


 「戦況が変われば、後方部隊の冬悟さまにも出陣命令が下るかもしれないし! それに……。肥前の遊女に、冬悟さまが夢中になられるかも……」


 「私が、遊女を?」


 冬悟は声を押し殺して笑った。
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