四百年の恋
 「どんな魅惑的な遊女も、姫の可憐さには及ぶまい」


 「ですが……」


 「姫を伴いでもしたら、逆に私が心配でたまらぬ」


 「……と申しますと?」


 「太閤は稀代の女好きだ。姫に目をつけるようなことがあれば、私は謀反人として太閤に刃を向かねばならぬ」


 「そんな……!」


 「冗談だ。刃を向く、とは言い過ぎたが。それだけ姫を愛おしく思っているということだ」


 「冬悟さま」


 「半年か、一年か。いつ戻れるか分からないが、戻ったらすぐに祝言を挙げたい」


 「私も、お待ちしております」


 「月姫……」


 初夏の爽やかな風に包まれて。


 二人は初めて、唇を重ねた。


 柔らかなそよ風が吹く昼下がり。


 冬悟が戻るまでの長い日々は、想像するだけで憂鬱だったけど。


 戻った後は、生涯を共にすることになる。


 姫はそう信じて疑わなかった。
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