四百年の恋
 福山冬悟が福山城へ戻ってきたのは、その年の冬のはじめだった。


 思ったよりも早く朝鮮出兵は終焉を迎えたのだった。


 夏の終わりに太閤秀吉が薨去したことに伴い、遠征の意味は喪失。


 それにより冬悟も、予定よりも早く福山城への帰郷が許された。


 月姫は冬悟不在の間、実家である明石城(あかしじょう)に戻り、嫁ぐ日のために花嫁修業に励んでいた。


 華道や茶道は苦手だったものの、冬悟に恥をかかせないようにに、姫はひたすら頑張った。


 まだ正式に婚約したわけではないが、安藤の叔父が仲介し話はかなり進んでいた。


 (冬悟さまが福山城に戻られて落ち着いたら。まず私は、叔父夫婦の養女となり。それから正式に婚約)


 祝言は翌年の初夏あたりに予定された。


 年が明けて程なくして、冬悟の代理人が姫の実家である明石城を訪れ、婚約の段取りが整えられたのだった。


 春の花見の宴の際、当主・福山冬雅に拝謁し、その後は祝言へと向けて準備を進める。


 そのような予定だった。


 姫の実家である明石城は、福山城のある辺りよりも気候が厳しく、天気も悪い日が多い。


 そんな憂鬱な冬の日々も、春の訪れと共に始まる夢のような日々を思えば、姫は少しもつらくなかった。
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