四百年の恋
 「今より冬悟の許婚として、城内にて自由に振る舞うがよい」


 これにて月姫と福山冬悟の婚約は成立したものとみなされた。


 「ありがとうございます! 殿」


 兄弟でありながら、当主である異母兄に対し冬悟は、常に一歩下がっていなければならないのだ。


 とはいえこれを機に、姫と冬悟との婚約は周囲に認知されたため、宴の列席者が入れ替わり立ち代わり、冬悟に酌をしに訪れた。


 姫もその横で、お酒を一口二口。


 ……。


 冬悟は次々にやって来る人々の酌を受けたり、祝福の声の対応に追われていた。


 姫は横で微笑んでいるだけで、少し退屈してきた。


 隙を見て姫は、一人満開の桜の咲き誇る庭園へ抜け出す……。 


 ふわっと風が舞った。


 と同時に桜の花びらが舞い散る。


 桜は宴に合わせたように、今まさに満開の時を迎えていた。


 ただ……。


 満開になるとその瞬間に花は盛りを過ぎて、あとは散り行くだけなのだ。


 桜は咲いてから程なく満開になり、その時間は短く、たちまち散り始め。


 開花から十日もすれば、天候にもよるけどもう葉桜。


 実際に目の前のこの桜はちょうど一年前、この木のそばで姫と冬悟とが出会った、あの思い出の木。


 今年も華やかに咲き誇っている。


 ほんの少し前に、満開の時を迎えたのだろうか。


 ひらひらと花びらがこぼれてくる。
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