四百年の恋
 「こんな立派な花を残され、いつまでも殿に愛でられるだけでも、先代の奥方様は幸せなのではないでしょうか」 


 「そなたはそう思うのか」


 「はい」


 ちょっと出すぎた真似をしたかもと、姫は少し心配になっていた。


 (叔父の話によると、殿はかなり気難しいとのこと)


 冬悟とはあまり似てはいないものの、横顔はどことなく冬悟の輪郭と似通っていた。


 余計なことを言って怒らせてしまったかと不安げに、姫は恐る恐るその顔色を窺った。


 ところが。


 「そう言ってもらえると、少々気が楽になった」


 冬雅はそっと笑みを浮かべた。


 怒らせたりしなくてよかったと、姫はほっと一息。


 ……。


 その後しばらく、共に桜を眺めていた。


 「……しかし、むなしいものだ」


 しばしの沈黙の後、絶え間なく舞い散る花びらを見つめながら冬雅がつぶやいた。


 「何がでしょうか?」


 「満開のそのすぐ後には、花は散り始める。それはまるで、人の世のよう。まさに春の夢のごとしと言うか、永遠などどこにもないことを改めて思い知らされるようで……むなしいのだ」
< 134 / 618 >

この作品をシェア

pagetop