四百年の恋
 ……。


 「姫」


 慌てた表情と声色で、冬悟が姫のほうへ近づいて来た。


 「兄と……何を話したのだ?」


 「何でもありません。ただ、この桜にまつわる思い出について、」


 「その枝……!」


 姫が手にしている桜の木の枝を見て、冬悟は驚いた。


 「まさか姫が手折ったのか?」


 「いえ。殿に賜ったのですが」


 「そうか……」


 冬悟は、ほっと一息。


 「この桜は、兄上の亡き母上の思い出の木だから、兄上はこの上なく大切にしていらっしゃる。万が一傷つけようものなら、切腹させられると城の者は怯えておるくらいだ」


 「切腹……!」


 姫は顔が青くなった。


 「もちろん冗談だろうが。……だが兄上が自ら手折るとは」


 かなり異例のことのようだ。


 「兄上がお前と親密そうに語り合っているのを広間から見て、よもや口説かれているのではと心配になった」


 「まさか」


 姫は思わず笑ってしまい、


 「これから私も福山家の一員になるので、よろしくとのことでした」


 「本当に……それだけか?」


 「もちろんです」


 「……」


 「何か心配なことでもあるのですか?」


 冬悟があまりに不安そうな表情を見せたので、姫も心細くなってしまった。


 「兄上が他人に穏かな表情を見せているのを、久しぶりに目にしたから」
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