四百年の恋
 「そうだ、これを機にお前に新たな名を授けるというのはどうだ?」


 「新たな名?」


 「お前はこれから、状況の変移や立場が変わるにつれて、様々な呼び名を周囲から与えられるであろう」


 確かに今でもすでに姫は。


 実家に由来する「明石の方」とあだ名を付けられたり、これから安藤の叔父夫婦の養女になるのに伴い、一時的に安藤姓を名乗ることにもなるし。


 そして結婚後は、福山家の一員に。


 「だから、永久に変わることのない、私だけの呼び名をお前に与えたい」


 「それはいったい?」


 「月光姫」


 「げっこうき……?」


 姫は復唱した。


 「どうだ?」


 「まるで……楊貴妃みたいな響きです」


 姫は少々戸惑っていた。


 「月光を浴びるお前があまりに美しくて、思いついた名前だ」


 「私には大袈裟すぎて、ちょっと恥ずかしいです」


 「お前は自分を過小評価しすぎだ。少し自分に自信を持て」


 「ですが」


 「京女の華やかさも、肥前の遊女のあでやかさも、全て色褪せるような美しさを、お前は持ち合わせている」


 「買い被りすぎではありませんか? 私にそんな」


 「お前美しい。夜空に輝く月のように、これからも私を惑わし、癒し続けてほしい」


 「冬悟さま」


 再度、抱き合う二人。


 月に照らされながら。


 桜は常に散りゆくものではあるが、二人はこのままずっと離れることがないと信じていた。
< 139 / 618 >

この作品をシェア

pagetop