四百年の恋
***


 「……どなた?」


 宴が開催されている間、城内の叔父たちの宿泊場所の一角に泊まっている月姫。


 夜更けになっても、先ほどまで冬悟と夜桜の下で抱き合った記憶が鮮明で、なかなか寝付けず。


 宿舎の障子(しょうじ)をそっと開けて、そこから見渡せる桜の木々を眺めていた。


 すると木々の隙間に、人の気配を感じた。


 気のせいかと最初は思ったけど、そうではないようだ。


 誰かいる。


 気味が悪いので、恐る恐る声をかけた。


 不埒者ならば、大声を出せばどこかから警護の者がが駆けつけるだろう。


 すると。


 「月光姫、静かに」


 唇に指を立てて、言葉を制止したのは……。


 「冬悟さま!」


 突然の登場に、姫は驚いた。


 「祝言まで待てなくて」


 庭園から障子を開け、部屋に入ってくるなり強く姫を抱きしめた。


 薄手の寝間着越しに、温もりが伝わる。


 「……祝言(しゅうげん;結婚式)を終えるまで、こういうことはやめたほうがいいかな?」


 耳元で囁かれる。


 「……」


 好きなのに、どこか姫は怖さを感じていた。


 「ずっとそばにいるから」


 唇を重ねてしまえば、道徳も何もかもが無用に思えてくる。
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