四百年の恋
 ……例年福山城の花見の宴は、前夜祭と本祭の二日間だけ。


 しかしこの年は、福山冬悟と月姫との婚約祝いも兼ね、三日三晩続けられることになっていた。


 三日目の夜。


 二人の正式な婚約発表が、ついに当主である福山冬雅から直接発せられることとなっていた。


 当事者である二人は、その喜びの瞬間に立ち会うべく。


 胸の高鳴りを必死に抑えながら、二人並んで宴の間へと入った。


 そして殿・冬雅の到着を待つ。


 というよりもむしろ、二人の人生の節目となる、喜びの知らせの公布を待ちながら。


 程なく冬雅が到着した。


 お付きの小姓たちに先導されるように。


 「今宵は、花見の宴の最終日だ」


 広間に顔を揃えた一同は、後の乾杯の瞬間のための杯を手にしている。


 侍女たちがそこに、酒を注いでいる。


 「皆の者、心ゆくまで楽しむがいい。……その前に皆に知らせることがある」


 (ついに私たちの婚約が殿の口より、正式に発表される……!)


 姫の胸の鼓動が、静まり返った広間内に響き渡りそうだった。


 「……まず、我が弟・冬悟」


 「はい」


 冬雅は冬悟を御前に招き寄せた。


 「この度そなたを、」


 冬雅は朗々と、宣言を始めた。


 (その次に続く言葉は、冬悟さまと私の婚約の旨!)

 
 姫はそう信じて疑わなかったのだが、


 「福山家の、次期当主の座に命ずる」


 「えっ?」


 突然、予期していなかった次期当主の地位を約束され、冬悟も驚きを隠せずにいた。
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