四百年の恋
 十字架のネックレス。


 圭介が大学の近くの古道具屋で、あの事件の直前にたまたま購入したものだった。


 思うように動けなくてイライラしていて、車で大学から帰る途中、通りすがりに見つけた古道具屋。


 気分転換に立ち寄ってみて、そこでこの十字架を発見した。


 (何となく購入して、それ以来ずっと首から提げていたのだけど。まさか奴を撃退する効能があるとは)


 福山が消えた後、この十字架の由来を尋ねようと、圭介は再びその古道具屋を訪れた。


 しかし、市内の洋館取り壊しの際に出た、大量の不用品の中に混ざっていたものの一つ……程度しか分からなかった。


 (なぜこの十字架が、奴を苦しめたんだろう。ドラキュラ映画でもあるまいし)


 何も分からないままだった。


 それと……。


 「あれから福山冬悟についていろいろ調べたのですが、何も記録が残っていないんですよ」


 同級生の歴史オタク男が例の一件に触発され、福山冬悟のことを調べたようだ。


 だが福山家の公式記録に残っているのは……、


 「第三代当主、福山冬雅公の一番下の弟。次期当主の呼び声も高かったが、二十歳を少し過ぎたばかりで夭折。城下にも惜しむ声が多かった」


 ……それだけだった。


 兄に婚約者を奪われ、自害に追い込まれたなどの記述はどこにもなかった。
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