四百年の恋
 「あいつの狂言だったんじゃないの」


 「いや、僕にはそうは思えませんね……」


 オタク男は真剣なまなざしで圭介に告げた。


 「弟の婚約者を取り上げ、弟のみならず婚約者とその一族までをも死に追いやったなんて公式発表したら、領内外を揺るがす大スキャンダルとなり、冬雅公の名声は地に落ちたでしょう。それを避けるために、都合の悪いことは隠蔽したのでは?」


 「隠蔽か。それもありうるな」


 歴史とはすなわち、「勝者の声明文」。


 戦いに勝ち残った方が、自分を正当化した記録を残すのが常。


 敗者にも当然、言い分はあるのだけど……その声は抹殺され、もみ消される。


 後世に残るのは、勝者に都合のよい記録だけ。


 そしてそれが「歴史」となる。


 その繰り返しなのだ。


 (つまり福山冬雅も、自らの汚点である、弟を謀殺した過去は封印。当然周囲の者も、恐れ多くてそんな記録は記載できず、なかったことにされたはず。やがて福山冬悟と月光姫の悲劇は歴史の中に埋もれ、忘れ去られていった……。きっとそんな感じなのだろう)


 「そうそう福山冬悟が死去した直後に、家臣の謀反があったんですよ」


 「謀反?」
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