四百年の恋
***


 ……ついに、その日はやって来た。


 連休明けすぐに、博物館実習の一環である福山城見学が予定されていた。


 よりにもよって今年、ここ十年近く続いていた福山城の改修作業がようやく完了するという偶然。


 この連休から一般開放が久しぶりに開始されていた。


 そして……今年は四月中ずっと寒くて、桜の開花が大幅に遅れていた。


 例年なら福山城のある松前町は、北海道の中でも最も開花が早く。


 連休前にはすでに咲き始め、連休に差し掛かるあたりに満開になるはずが。


 今年は遅れていて、連休開始後に開花。


 連休明けの今頃になってようやく、満開に達したという。


 まるで彼らが福山城へ出向くのを待ち受けているかのように。


 とはいえ、真姫を福山の近くに連れて行くのは危険なので、圭介は真姫に今回の松前行きを欠席するように勧めた。


 別に必修ではないのだから、休んでも構わないと。


 だが真姫は、首を横に振った。


 「この機会に、自分の目で確かめてみたいの」


 福山冬悟の最愛の人、「月光姫」の生まれ変わりだと言われた真姫。


 当然前世の記憶などないので、証明はできない。


 だからこそ真姫は、福山城へ足を踏み入れることを望んだ。


 かつて月光姫と福山冬悟が存在した場所。


 愛と悲しみの思い出が刻み込まれた舞台。


 そこに再び立つことによって、記憶の奥から呼び起こされる何かがあるか、確かめてみることを望んでいた。
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