四百年の恋
 (だがもしも真姫の前世の記憶が甦りでもしたら、どうなるのだろう?)


 圭介は最悪の事態を想定した。


 (真姫はおそらく福山冬悟との愛を貫く道を選び、現世における「代用品」にすぎないこの俺は……取り残される)


 「嫌ね、何言ってるの」


 真姫は苦笑しながら、


 「私は、私よ」


 前世のことなど関係ないと主張する。


 「生まれる前の人生で、福山冬悟という人を愛していたとしても……。今は圭介くんだけ」


 そう言って圭介の唇に触れた。


 (本心から? それとも俺を安心させるため? ……分からない)


 真姫の憂いに満ちたまなざしに包まれても、圭介の不安は消えない。


 (願わくば俺の胸の十字架同様、真姫の薬指の指輪にも、亡霊を追い払う霊力が授かりますように・・・)


 そんなことを祈っていたところ、


 「吉野くん」


 いきなり同級生の静香に呼ばれて、圭介ははっとした。


 バスの座席でぼーっとしている。


 本日、ついに福山城見学の当日。


 函館から松前までは、大学側が観光バスをチャーターしていた。


 圭介は真姫と並んで座っていたのだけど、前席の静香が振り返って、彼らにお菓子を渡してきた。


 「どうも」


 二つ受け取って、その内一つを窓際に座る真姫に渡したのだが、真姫は窓の景色をぼんやり眺めていて、圭介の呼びかけにも最初は気づかなかった。
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