四百年の恋
 「俺、こんなじじいじゃねえし」


 確かに顔の形はなんとなく似ているかもしれないと圭介自身も感じたが、冬雅は当時としては高齢な70過ぎまで生きた。


 骨を復元すると、死んだ時の姿を再現することになり、当然老人。


 「いやーほんとそっくり。吉野、お前じいさんになった時の未来予想図だなこりゃ」


 「ふざけんなよ。こんなじじいと、この俺のどこが似てんだよ」


 「なんて贅沢な! かの冬雅公と似ているなんて、光栄なことじゃないですか!」


 オタク男はそう言うのだけど、いくら名君とはいえこのような老人に似てると言われても圭介は嬉しいはずもなく、ぷいっと後ろを見て真姫の元へ戻ろうとしたその時。


 「真姫?」


 真姫は先ほど圭介が着物を眺めていたのと大して変わらない場所で、たいそう青い顔をして展示物を凝視し続けていた。


 「どうしたんだ?」


 圭介が慌てて駆け寄ると、


 「あれは……」


 真姫が指を指したのは、引き出しが数個ある小さな木製の物入れで、その上部には地球儀が付いている。


 「そちらも冬雅公の遺品の中に残されていたものです。舶来品と推測されます」


 「……違う」


 「えっ」


 「違う!」


 急に真姫は大声を上げたため、驚いた辺りの人たちが一斉に真姫のほうを振り返る。


 すると真姫は、予期せぬ行動に出たのだった。


 展示コーナーのガラス戸をいきなり、こじ開けようとしたのだった。
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