四百年の恋
 「真姫……」


 真姫もまた、庭の桜を見入っている。


 何かの拍子に前世の記憶を呼び覚ましたりはしないか、圭介の不安は募った。


 間もなく不安は的中することとなる。


 「美しすぎる花は、どこか不吉で」


 「え?」


 真姫がよく分からない言葉を口にした。


 「あまりにも幸せな日々が続いて、逆に心配だった。何か悪いことの前触れじゃないかって考えてしまって。冬悟さまは気にしすぎだって笑っていたのだけど、杞憂ではなかった……」


 「!」


 真姫の中の月光姫は、消えてなどいなかった。


 すでに真姫の記憶と混ざり合い、同化してしまっていたのかもしれない。


 「待て!」


 「離して!」


 庭園に飛び出そうとする真姫の手首を、圭介は掴んだ。


 「行かなくちゃ」


 「どこにだよ」


 「冬悟さまが待ってる」


 「あいつはとっくの昔に死んだ。もうどこにもいない」


 圭介の言葉に、真姫は強く首を振った。


 「再会の約束。果たす時は、今……!」


 その瞬間だった。


 真姫の首に下げていた圭介の十字架が突然割れ、四方に派手に飛び散った。


 「何だ?」


 圭介が一瞬ひるんだ際、掴んでいた真姫の手首を離してしまい、真姫は庭園へと駆け出した。
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