四百年の恋
 福山は大学に紛れ込んでいた時の現代の服装とは違い、長い髪を一つに束ね、背の高いすらりとした体に質の良さそうな着物をまとっている。


 (あ、この着物の柄はもしや。福山城内の福山冬雅の展示コーナーにおいて、マネキンが身にまとっていたあの着物では?)


 色褪せて茶色っぽくなっているけど、元は鮮やかな青系の色。


 柄も一緒。


 圭介は自分の腕から逃れようとする真姫を、強い力で押さえていたのだけど。


 「!」


 福山がちらっと圭介を見つめた瞬間、圭介の腕の力は失われた。


 その途端に真姫、いや月光姫は福山の元へと歩み寄った。


 「冬悟さま!」


 「月光姫、ここへおいで」


 腕を広げて待ち受ける福山の胸へ、真姫は飛び込んだ。


 これが実質的に、四百年ぶりの抱擁になるのだろうか。


 福山冬悟と月光姫の。


 圭介はもちろん、その場に居合わせた誰もが皆、黙って見ているしかできなかった。


 ただ薄墨の花びらが、激しく揺れそして舞い続けていた。
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