四百年の恋
 「城で急ぎの用ゆえ、私とわずかな供の者だけで一足先に戻るのだ」


 「急ぎの用ですか?」


 「そなたはもうしばらくここ大沼に滞在し、次の知らせを待っていればよい」


 「知らせ?」


 「今度こそ……そなたは私のものだ」


 急ぎの用や知らせとは何のことか、冬雅は姫に何も告げず。


 姫の髪を愛おしそうに撫でて、そのまま立ち上がり退出していった。


 宴はそれをもってお開きとなってしまった。


 「……」


 妙だと姫は思った。


 急に福山城へ戻ることになった冬雅。


 「叔父上、殿は今晩中に福山城へ戻られるそうですが」


 側近である安藤の叔父に聞いてみたのだが、


 「何だと。私は聞いてはおらぬぞ」


 叔父はたいそう驚いた。


 「福山城で何かあったのでしょうか」


 一部の側近しか伴わず、慌てて城へ引き返した冬雅。


 「分からぬ。何かあったのなら、我々重臣たちにも話があるはずだが」


 突然姿を消した福山冬雅。


 (何のために慌しく福山城へ?)


 状況が分からなかった。


 姫は不吉な予感を覚えた。


 「……」


 外の木々が夜の闇の中、風でざわざわ音を立てていた。
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