四百年の恋
 「へ、へい。何でございましょう」


 「その馬は、人を乗せて走ることができるか?」


 「へい。伝令用の馬ですので。昨夜も福山の殿様の使いの方がお使いになりました」


 「その馬と私の馬、取り替えてくれないか」


 「へっ、そんな上等な馬とですか? 娘さんはどこのお方でしょうか」


 「私は、明石家の月と申す。その馬を貸してほしい。急ぎの用が・・・」


 「もしかして、月姫さまでしょうか。福山の若様の許婚でいらっしゃる」


 「いかにも」


 「この辺りでも騒動になっているのですが、若様が謀反を起こしただなんて、到底信じられません。まさか殿を殺めようとするなど」


 「私もそれを確かめるために、急いで福山城に戻る途中なのです」


 「絶対に何かの間違いです。我々農民にも誠実に接してくれるあんな若様が、謀反などという恐ろしい企みを持つなどあり得ません」


 その農夫は、喜んで姫に馬を差出た。


 姫は馬に飛び乗り、改めて手綱を強く握り締めた。


 福山城下まで、あともう少し。
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