四百年の恋
 「通しなさい!」


 「これから先は、殿のご命令により、進入禁止です」


 やっとのことで福山城にたどり着いた月姫。


 時刻すら分からなくなるほどに、夢中でここまで走ってきた。


 まだ太陽は高い位置にある。


 春の風はまだ冷たいはずなのに、姫は汗だく。


 土埃を巻き上げながら走り続けたため、身体中埃まみれ。


 そんなことなど忘れてしまうくらいに夢中で、姫は冬悟に会おうとした。


 冬悟は城内の座敷牢のような場所に幽閉されているという。


 (一刻も早く救い出さなければ・・・!)


 だが当然、衛兵たちは冬雅の命令とのことで姫を阻止する。


 しばし押し問答が続いたものの、埒が明かない。


 「何を騒いでおる」


 その場に姿を現したのは、福山冬雅……!


 「殿、この姫が」


 姫の抵抗に手を焼いていた衛兵が、対応を冬雅に委ねようとする。


 「姫、よくぞこんなに速くここに」


 姫があまりに速く福山城へ戻ってきたことを、冬雅はまず驚き。


 「それにしても、全身土まみれではないか」


 姫の汚れた身なりに、眼を丸くした。


 「お願いします、冬悟さまに会わせてください。これは何かの間違いなのです」


 「姫の頼みでも、それは無理だ。奴は罪を犯した疑いがある」


 「嘘です! 冬悟さまが謀反だなんて・・・」


 姫が「謀反」と口にした途端、冬悟の顔色が変わった。


 「罪人である可能性のある者は、白黒はっきりするまで牢から出すわけにはいかない。明日の裁判の場で、奴には私が直接尋問する」
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