四百年の恋
 「裁判……!」


 姫は血の気が引いていくのを感じた。


 それは最初から判決が定められている、形だけの審判の場。


 当主への謀反を企んだ者は、断罪は免れないだろう。


 場合によっては、処刑……!


 「そ、それだけはおやめください。冬悟さまは決して、そのようなつもりでは・・・」


 姫は冬雅に、執務室である広間に連れて来られた。


 広い広間に二人きり。


 できる限りの助命嘆願を行なうつもりだった。


 「そなたに何が解る」


 冬雅は冷たく姫に告げる。


 「殿と冬悟さまは、母違いとはいえご兄弟ではないですか。肉親の言い分をもっとお聞きになっては」


 「兄弟は最も近くにいながらも、最も油断できない最大の敵。源平争乱しかり。応仁の乱しかり。それが乱世の掟ではないか?」


 「すでに乱世は、終焉を迎えております。この世を治めるのは力ではなく法です。どうか正当な、法による審判を」


 姫は必死で嘆願した。


 「そこまで冬悟を救いたいか」


 冬雅は姫に、顔を上げるように命じた。


 「涙を流すほどに、冬悟を想うのか」


 冬雅に指摘されるまで、涙を流していることに気づかぬほどに姫は必死だった。


 「直接私を殺めようと斬りかかって来たわけでもないので、即刻死罪とはならないとは思うが……」


 そう告げながら冬雅は、姫の体を引き寄せた。


 「そなたの出方次第では、審議をじっくりやってもいいのだが」


 姫は冬雅の腕の中、完全に捕われた。
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