四百年の恋
 「我が後継者にとすら考えたほどの弟。怒りに任せて斬ったりはせぬ」


 冬雅は姫にそう告げたのだが……。


 (謀反を企んだとして捕らえられ、これほど話が大きくなってしまったにもかかわらず,無事に済むのだろうか。無実だと信じたいのだけど、もしかしてこれは罠だとしたら、罪と判断しうる証拠を冬悟さまは握られているのでは……)

 夜の帳が辺りを包み始めた頃、ようやく安藤の叔父が屋敷に戻ってきた。


 「姫、昼間のうちに福山城に戻ったそうだな」


 叔父は姫の速さに驚いた。


 そして。


 「冬悟さま、大変なことになったようだな……」


 こわばった表情を浮かべた。


 「叔父上、冬悟さまは牢に捉えられ、明日裁判だとか」


 「先ほど通達があった」


 叔父は暗い表情だった。


 「そして、殿の大沼行きの間留守居役補佐を勤めていた赤江どのが、急に辞職を願い出たそうだ」


 「辞職?」


 「殿の家臣の地位を辞して、田舎に引きこもるそうだ」


 こんな大事な時期に、何か不自然だと姫も感じた。


 「よもや赤江どのが、冬悟さまをけしかけたのではあるまいか。そして謀反を決意させ、殿に密告・・・。その後証拠隠滅のために、福山城を後にしたのでは」


 そうとしか思えなかった。


 (冬悟さまは、嵌められた?)


 赤江に。


 (いやもしかしたら、その背後で殿が糸を引いていた?)
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