四百年の恋
 「このまま無実のまま、冬悟さまを罰せよと申すのですか!?」


 「冬悟さまは無実ではありません」


 その家臣は淡々と述べた。


 「罪を犯されたのです。殿を排除しようなどという、出すぎた真似を」


 そして叔父の目の前に、書状の束がドサッと置かれた。


 福山冬悟の印。


 書状の内容は……福山家の家臣の中でも冬悟と親しい関係にある者たちへの、反逆の呼びかけ。


 謀反への誘い。


 挙兵後、大沼から福山城へと通じる道を封鎖して、当主・冬雅が戻ってこられないようにしてしまい、引退に追い込み家督は冬悟が継承する云々。


 冬悟があちこちに届けようとしていた書状が、なぜか今こうして冬雅の手中に落ちているのだ。


 「武田信玄が父親の信虎を甲斐の国から追放し、家督を継承した際の事例に倣っている様子です。これほど明白な証拠を目にしても、安藤どのはそれでも無実を主張なさるのですか?」


 家臣は冷たく言い放った。


 「……!」


 安藤は言葉を失った。


 「審議はこれまで。冬悟は牢に連れて行け」


 「殿!」


 退出する殿に向かって、安藤はむなしく呼びかけた。


 だが冬雅は振り返ることなく、同時に冬悟も牢に連れ戻された。


 「安藤どの。貴殿の冬悟さまを守りたい気持ちも分からないわけではないですが、ほどほどにしないと貴殿の一族にまで害が及びますぞ」


 ある家臣が安藤に忠告した。


 「もう判決は覆らないでしょう」


 判決が覆らない。


 それは、つまり……。
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