四百年の恋
 「冬悟さま!」


 裏門に近づいた時、町人たちが多数集まっているのを目にした。


 「冬悟さま……!」


 息を切らして姫は、町人たちの人だかりに突入した。


 「姫さま!」


 姫を知る者が驚き、その表情を見据え驚く。


 「冬悟さまは、もう……?」


 「はい……。ほんの少し前、馬に乗せられ役人に引かれて……」


 辺りからは、すすり泣く声も。


 「お優しい若君さまでしたのに……」


 (冬悟さま……!)


 姫に泣いている暇はなかった。


 まだ間に合うと信じ、河原の刑場へと向かって駆け出す。


 (どうか間に合って!)


 河原が近づいてきた。


 「冬悟さま!」


 姫は愛しい人の名を呼びながら、人ごみをかき分け、群衆の向こうに馬上の冬悟の姿を目にした。


 その体は縄で縛られ、白い着物を着せられ。


 それでいてなお、視線は凛として前を見据えていた。


 (罪を恥じて死にゆくのではなく。不運にして戦いに敗れて、死を余儀なくされただけなのだから)


 「冬悟さま!」


 群衆の最前線に立った姫は、再度呼びかけた。


 冬悟のまなざしが、姫のほうに向けられる。


 しかし二人の間には、運命を隔てる木製の柵が……。


 どんなに揺さぶっても、びくともしない。


 これ以上は近づけない。
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