四百年の恋
 もしも冬雅が本気を出したならば、姫など一ひねりにされてしまっただろう。


 だが冬雅は、それ以上は強引な手段には出なかった。


 「悪かった。まだ冬悟を失くして間もないというのに、私は欲に負けてそなたに強引なことを」


 姫にそう告げて、帰り支度を始めた。


 「そなたの気持ちが落ち着くまで、しばし待とう。そなたの輿入れは」


 冬雅はどうあっても、姫を側室として迎え入れたいようだ。


 「正式な輿入れは、冬悟の一周忌が終わってからにする予定だ」


 あまり早く姫を手に入れては、そのために弟を死に追いやったと悪評が立つ。


 それを抑えるためだろう。


 「最後に、改めてそなたに言っておく」


 障子を開け、部屋を出て行こうとする冬雅は一度歩みを止め、姫のほうを振り返った。


 「あいつは私に負けたのではない。自分自身に屈したのだ」


 そのような言葉を残し、冬雅は出て行った。


 冬雅の最後の一言を噛みしめながら、姫はしばらく部屋の真ん中でうつむいたまま、夜は静かに更けていった。
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