四百年の恋
***


 福山冬悟の法要に合わせるかのように、桜は満開に近づいていた。


 あの悲劇から、ちょうど一年。


 一周忌に合わせて、冬悟の法要が執り行われた。


 福山冬悟は切腹に処せられた謀反人だけど、冬雅の弟として最小限の弔いは許されることとなったようだ。


 ……それが表向きの理由。


 (本当は、殿の良心が咎めたからでは?)


 冬悟の謀反が、真実だったのかどうかは怪しい。


 本当だったとしても、それは冬雅の重臣である赤江によって、不当にけしかけられたものである可能性が高い。


 その赤江は、「殿の留守中、謀反に気づかなかった責任」とのことで蟄居。


 冬雅の側近の地位を辞したものの、出家して外見だけは贖罪の意を示し、結局は冬雅の裏の参謀であり続けている。


 ……法要は城の裏庭で執り行われる。


 福山家代々の墓所に弔われることができない冬悟は、城の裏庭に一人寂しく埋葬されることになった。


 姫が侍女を数人連れて、座席へと向かっていた時。


 身分の高そうな女性とその侍女たちが、姫たち一行の斜め前を横切った。


 (姫さま。殿のご正室さまです)


 侍女が姫に耳打ちしたため、姫は一歩退いて挨拶をした。


 「あなたが……明石の方?」


 豪華な衣装。


 柔らかい京訛りの口調で、正室は姫に話しかけた。
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