四百年の恋
 (それができるのなら、どんなに楽か……!)


 姫は悔しさをこらえるため、拳を握り締めた。


 死ぬことが許されない自分。


 (死よりも辛い生を選ばざるを得なかった。私の気持ちなど考えず、結果だけを見て周囲の者たちは好き勝手に……)


 「お前が月姫か」


 姫は急に子供に名を呼ばれた。


 見るとまだ十歳くらいの少女。


 「噂には聞いておる」


 (子供のくせに、尊大な立ち振る舞い。もしかして……殿の姫君?)


 どことなく顔つきも似ていると姫は思った。


 「お前のせいで、私は叔父上を失った。美しい叔父上の元に嫁ぐのを楽しみにしておったのに。叔父上を返せ!」


 そう言って幼い姫君は、月姫に詰め寄ってきた。


 「お前が父上をたぶらかしたおかげで、何もかもがおかしくなってしまった! 私はお前を恨むぞ!」


 「姫さま。こんな所で、なりません」


 法要の席での、ある意味修羅場。


 「殿のおなりである」


 殿の到着と共に、一転して辺りは静かになった。


 「姫、行きますわよ」


 正室が姫君を連れ戻しに来た。


 「お前など、尼寺へ行け!」


 姫君の月姫への捨て台詞。


 正室はすまなさそうに姫をちらっと見たのだが、その瞳は意地悪く笑っているように見えた。


 悔しさや悲しみをぶつける場所が見つけられないまま、月姫も席に着いた。
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