四百年の恋


 間もなく天下分け目の関が原の戦いが始まろうとしているにもかかわらず、戦乱の地から遠く離れたここ福山城下は平穏そのものだった。


 姫は冬雅の寵愛を受け、連日この身を任せた。


 寵愛が深まれば深まるほど、姫への周囲の風当たりは日増しに強まっていった。


 正室に近い関係の者たち。


 他の側室たち。


 それらを支持する重臣たち。


 冬雅の寵愛が姫に傾くのを面白く思わない連中は、かなり多かった。


 福山城の公式行事に顔を出す際、姫はこの上なく息苦しさを感じたものだ。


 姫が冬悟を裏切って、冬雅に鞍替えしたと信じている者が多かった。


 (冬悟さまの死は、私が原因だと言う者も……)


 気まぐれで冬悟から姫を奪ったところ、思わぬ形で冬悟は謀反を起こしやがて滅びた。


 (それらは殿に想像以上の罪の意識を与え、罪滅ぼしのために私を丁重に扱っているのだろう)


 姫はそう推測していた。


 (これは愛ではない、ただの贖罪)


 そう思い込んで、冬悟への想いを保ち続けていたのに。


 寵愛が深まるにつれて、姫の心は揺れてきた。


 (もしかしたら殿は、心から私を慈しみ始めたのかもしれない)


 そう確信し始めた。


 ところがその思いは、儚くも打ち砕かれることとなる。
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