四百年の恋
3
その日、少々風邪気味だった月姫は、早い段階で治してしまおうと薬を求め、医師の元へと向かっていた。
「予想以上のご寵愛ぶりね。あの調子なら月どのにお子が授かるのも、時間の問題でしょう」
福山城に使える女たちが、やはり医師の元に薬を求めて訪れていて、姫の存在に気づかないまま噂話に花を咲かせていた。
「今さら月どのに男の子が生まれたら、後継者問題がややこしくならないかしら」
「奥方さまには女の子しか生まれなかったし、他の側室の方々にも女の子だけ。殿にはお世継ぎがいらっしゃらないし」
「だからこそ、月どのに今後、嫡男誕生の期待をかけているのね」
「それにしても、驚くばかりのご寵愛ぶりね」
「……知ってる? 殿が月どのをご寵愛なさる理由」
「冬悟さまの許婚だったのを、強引に奪い取られたくらいですから。相当な恋慕だったのでしょうね」
「それだけじゃないわよ。古株の侍女たちは皆知っているのだけど、月どのは殿の初恋の相手の村娘に、瓜二つなのよ」
(え……?)
聞いてはいけない話が始まりそうで、姫の胸の鼓動が速まる。
「何その村娘って」
「殿がお若い頃、身分の低い娘を望まれたことがあるの。だけど京の公家の娘との婚約が決まったため、周囲の大人たちに引き裂かれてしまったのよ」
「で、その娘は?」
「心労のあまり、亡くなられたそうよ」
その日、少々風邪気味だった月姫は、早い段階で治してしまおうと薬を求め、医師の元へと向かっていた。
「予想以上のご寵愛ぶりね。あの調子なら月どのにお子が授かるのも、時間の問題でしょう」
福山城に使える女たちが、やはり医師の元に薬を求めて訪れていて、姫の存在に気づかないまま噂話に花を咲かせていた。
「今さら月どのに男の子が生まれたら、後継者問題がややこしくならないかしら」
「奥方さまには女の子しか生まれなかったし、他の側室の方々にも女の子だけ。殿にはお世継ぎがいらっしゃらないし」
「だからこそ、月どのに今後、嫡男誕生の期待をかけているのね」
「それにしても、驚くばかりのご寵愛ぶりね」
「……知ってる? 殿が月どのをご寵愛なさる理由」
「冬悟さまの許婚だったのを、強引に奪い取られたくらいですから。相当な恋慕だったのでしょうね」
「それだけじゃないわよ。古株の侍女たちは皆知っているのだけど、月どのは殿の初恋の相手の村娘に、瓜二つなのよ」
(え……?)
聞いてはいけない話が始まりそうで、姫の胸の鼓動が速まる。
「何その村娘って」
「殿がお若い頃、身分の低い娘を望まれたことがあるの。だけど京の公家の娘との婚約が決まったため、周囲の大人たちに引き裂かれてしまったのよ」
「で、その娘は?」
「心労のあまり、亡くなられたそうよ」