四百年の恋
 「いや! また一人取り残されて、絶望の底を彷徨うのは……!」


 「姫」


 「私も連れて行って」


 真姫は福山にすがり付いて、涙を流した。


 「四百年前も今も、私は姫の幸せだけを願っている。前の世では結果的に、姫を死に急がせてしまったことを、後悔している」


 「失って悔やんで生きるのは、もうたくさん」


 真姫は福山を引きとめようと、泣いてすがった。


 「姫……」


 取り乱した真姫を落ち着かせるためか、福山はそっと真姫に唇を重ねた。


 どんな言葉よりも真姫の心を静める効果があったようで、真姫は黙ってそれを受け入れていた。


 福山の瞳からも、涙の雫がこぼれ落ちた。


 その時。


 「福山くん……?」


 福山の体が、透明になり始めた。


 「空に還る時が来たようだ」


 福山は哀しげな目で空を見上げる。


 「いや……。逝かないで……」


 真姫は福山が消え行くのを食い止めようとするが、どうすることもできない。


 「姫への愛が、私を呪縛から解き放ち。そして今、姫の愛が……私を支配していたこの世への怨念を全てかき消した」


 福山が指で真姫の涙をなぞった。


 「この世に取り残されたくない……。またいくつもの春を一人で過ごさなければならないの?」


 「私が暗闇の中で迎えた、四百回の春に比べれば。わずかな時間だ」


 福山が真姫をなだめる。


 その間にも、見る見る福山冬悟は空気と同化していった。


 これで最後と悟ったのか、真姫を抱き寄せて、唇を重ね合わせた。


 そして真姫を胸に抱きしめ、視界を奪った途端。


 「今の世での命が尽きるまで、お前が姫を幸せにするがよい。だが次の世では……姫は必ず私の元に戻るだろう」


 福山は圭介に冷たい口調でそう告げた途端、真姫の体を圭介目がけて突き飛ばした。


 その瞬間、辺りはまばゆい光に包まれ、やがて目を開いた時、そこから福山の姿は消えていた。
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