四百年の恋
 「福山くん……」


 ようやく視界を取り戻し、真姫は辺りを見渡した。


 しかし福山の姿はどこにもない。


 桜の幹の陰に潜んでいるかもしれないと、駆け寄って覗き込んでも誰もいない。


 昨日までとは違う空気。


 もうこの世には福山がいないことを、告げているかのように。


 昨日までは、この世に福山の魂が残っているという安心感が真姫にはあった。


 いずれまた会えるという期待を胸に生きてきた。


 だがもうこの世では、会うことは叶わない。


 この世での寿命を終え、また次の世で巡り会えるよう祈るしか……。


 その時突然、地面が揺れ始めた。


 (地震?)


 真姫は不安そうに、周囲を確認した。


 これまで体験したことのないほどのひどい揺れ。


 震度五か六はあるのではないだろうか。


 「真姫、危ない!」


 圭介が真姫の元に駆け寄り、覆い被さった。


 なんとすぐそばの「薄墨」の木が、根元から倒れてきたのだ。


 圭介が間に合わなければ、真姫を直撃していたかもしれない。
< 278 / 618 >

この作品をシェア

pagetop