四百年の恋
 「これが……福山冬悟?」


 巨木の根のあった辺りに福山冬悟は眠っていた。


 頭部と上半身が露出。


 骨をちらと見ただけでは、その身元は解りはしない。


 だがその場に居合わせた一同は、それが福山冬悟であると直感したのだった。


 真姫は白骨に触れることができず、茫然とした表情で離れて骨を見つめているだけだった。


 「真姫……」


 圭介はその白骨を真姫に見せるべきじゃないような気がして、抱き寄せた。


 四百年前に、死罪となった福山冬悟。


 亡骸の側で、その養分を吸い上げる形で成長した老木「薄墨」。


 それは福山冬悟の魂の住処。


 四百年間監禁された牢獄。


 月光姫の生まれ変わりである真姫の真心に触れ、呪縛を解かれて福山は成仏。


 牢獄は役目を終えて倒壊した。


 辺りは何事もなかったかのように、沈黙に包まれていた。
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