四百年の恋
 翌日。


 午前11時から福山城の片隅にある福山家代々の墓地にて、悲運の死を遂げた福山冬悟の法要が執り行われた。


 長い年月を経て名誉が回復され、ようやく福山家の一員として墓所に葬られることになった冬悟。


 多くの参列者。


 東京から駆けつけた福山家の末裔たちは、まるで他人事のよう。


 子孫とはいえ四百年も前の先祖のことに対しては、さほど関心が持てないのかもしれない。


 逆に神妙な面持ちでこの場に臨んでいるのは、大学の研究室の面々。


 特にオタク男は、全てを記憶しておこうと努めているのか、真剣な眼差しで辺りを確認している。


 喪服に着替えた真姫と圭介が、並んで座っている。


 式の最後に、真姫は朝に調達しておいた白い花を、新たに造られた冬悟の石碑の前に捧げた。


 今度こそ、冬悟が安らかな眠りを得られることを祈り。


 次の世では、今度こそ必ず幸せになろうと誓いつつ。


 式典が全て終了するのを見届けた後、真姫と圭介はホテルに戻った。


 いつものように時間を共有し、やがて眠りに落ちていく。


 何も変わらないありふれた夜に思われた。


 「……」


 横で眠る圭介を起こさないよう、真姫は顔の向きを変えて枕元の時計を見た。


 夜明け間近。


 辺りは静けさに包まれている。


 このホテルは海から近いのに、なぜか波音は響いてこない。


 夜明け前の冷たい空気から守られるよう、恋人の腕の中に抱かれ居心地の良さを感じている真姫ではあるが、


 (また情に流されてしまう……)


 真姫は目の前の男にすがる自分の弱さを思い知らされ、その目に涙を浮かべた。


 夜は静かに明けていった。
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