四百年の恋
 「おい福山」


 それを教室内の数人が目にしていた。


 その中の一人だった圭介が、真姫と福山のそばに寄って来た。


 「お前、メルヘンを聞かせて女を泣かすのが趣味かよ」


 「メルヘン?」


 福山が聞き返した。


 「お涙頂戴の、悲劇のお姫様話。今時そんなくさい話に引っかかるお前もお前だよ」


 あざけった口調でそう言った後、圭介は真姫の肩をポンと叩き、真姫の泣き顔を覗き込んだ。


 「何よ、ジロジロ見ないでよ! 見世物じゃないんだから」


 真姫は圭介にそう告げて。


 カバンを手にして、教室を飛び出していった。


 「あーあ。福山、お前が泣かすからだぞ」


 圭介は責任転嫁して、今度は福山の方を見たところ、


 「黙れ無礼者! お前のせいだ」


 福山はキッと圭介を睨んで、そのまま無視して帰り支度を始めた。


 棘を指すような、鋭い視線。


 圭介は一瞬たじろいだ。
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