四百年の恋
***


 「この前は、ごめんね」


 「え、何が?」


 「急に涙が止まらなくなって。福山くんにも嫌な思いさせちゃって」


 次に真姫が福山に会ったのは、二日後。


 地域史1の授業の際だった。


 「あの話、そんなに悲しかった?」


 愛する人と引き裂かれ、挙句愛する人は処刑され……。


 無理やりその兄である当主に略奪され、自害した姫君の悲しいお話。


 「うん。姫君の気持ちを考えただけで、この胸が締め付けられそうな」


 「君の胸にも、記憶の断片が残されているのかな」


 「え?」


 「いや何でもない。……それより花里さんはこれからの予定は?」


 福山は恥ずかしそうに目を伏せて、話題を変えた。


 「私? 午後の3講目にスペイン語の授業があるから、その前に一人でランチ」


 真姫は仲間内で一人だけ、スペイン語の授業を選択していた。


 必修ではないし、専門科目にも直接関係ないので、周囲は誰も受講していなかった。


 真姫以外は午後の授業がない者が多く、ほとんどがこのまま帰宅だ。


 「そっか。じゃ一緒に食べに行かない?」


 「え?」


 「いつも学食?」


 「う、うん。安いし食べごたえあるし」


 「了解。じゃ一緒に食べよう」


 突然の展開に驚いている真姫の一方で。


 福山は話を進めてしまった。


 二人の会話に聞き耳を立てていた周囲も、驚いた顔で二人を見守っていた。


 これから部活の練習があり、ラケットバッグの中身を確かめていた圭介もまた、予想外の展開に言葉を失っていたのだった。
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