四百年の恋
 圭介は顔面蒼白になり、体が震えていた。


 他の生徒たちは圭介のその様子を見て、動揺している。


 (間違いない。こいつは福山冬悟そのものだ。瓜二つ……!)


 「センセ。俺、某有名俳優に似てるって言われたことは、一度もないんだけどね」


 突然「福山」と呼ばれて戸惑う清水は苦笑しながら、圭介を見つめた。


 「でもカラオケで『桜坂』はよく歌うけどね」


 無邪気にそんなことを口にする。


 「俺は清水優雅だよ。福山じゃないよ、どっから福山って出てきたんだろ? 他に福山って生徒いるの?」


 「いや、こっちの間違いだ。悪かった」


 自分をニコニコしながら眺める清水と、不思議そうな目で様子を窺っている他の生徒たちの視線にようやく気づいた圭介は、我に返った。


 「と、とにかく新学期早々の遅刻は歓迎できないな」


 平静さを装って、清水に告げた。


 「んー、俺、8時28分には校門通過したよ」


 「8時28分?」


 「うん。8時28分」


 この学園の校則によると。


 校門は八時半に閉鎖される。


 それまでに校門を通過しなかった者は、遅刻扱い。


 校門から教室までは、最大でも五分程度。


 というわけで校門を八時半までに通過しさえすれば、遅刻扱いとはならないのだった。
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