四百年の恋

淡色

***


 「吉野先生、グラスが空いてるじゃないですか」


 隣の先輩教師が圭介の空いたグラスに、瓶ビールを注いだ。


 「あ、すみません」


 グラスが満たされた後、圭介はその先輩のグラスに注ぎ返す。


 新学期の週末。


 市内の大型居酒屋で、紅陽学園高等部の教職員全員が集結した飲み会が開催された。


 新学期および合併を記念して、かつ合併した二つの学校から集められた教師たちの親睦を図る。


 ベテラン教師の多い中で、圭介は若手の部類だったので、何かと気を遣う。


 「いやいや吉野先生は、ほんとにお若い」


 平均年齢が高い教職員たちの中で、確かに圭介は目立つ存在。


 「いえいえ、もう若くはないですよ。今年で大台ですから」


 「大台? 29、じゃないですよね」


 「プラス10ですね」


 つい苦笑してしまった。


 「そうは見えませんね。……ところで吉野先生、ご家族は?」


 事情を知らない聖ハリストス出身の教師が、圭介に尋ねた。


 「一人ですよ。札幌近郊の実家には、両親がいますが」


 「えっ、お一人? じゃあまだ独身……」


 圭介はこくっと頷いた。
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