四百年の恋
 福山にそっくりな顔つき。


 だけどキャラクターが全然違う。


 一度たりとも、自分に笑顔を見せることはなかった福山。


 常に淡々とした口調だった福山。


 近寄りがたい雰囲気を身にまとっていた福山。


 しかしこの清水優雅は……。


 常に笑顔。


 最近の若者によくありがちな、ちょっと語尾が伸びるような喋り方。


 不思議と同級生が集まってくるような、親しみやすい雰囲気。


 「問題児」というカテゴリが、不釣合いに思えるほどに。


 清水優雅。


 見た目は福山の雰囲気を残しているけれど、全くの別人。


 「センセー。この本読んだことある?」


 そんな彼がゴソゴソと、机の中から本を取り出した。


 「なんだ、その本は? 授業と関係ないものは……」


 圭介は顔を近づけた。


 「!」


 思わず絶句。


 『北の悲恋伝説・月光姫』


 著者;明月一葉(めいげつ いちよう)


 明月一葉、それは大学の同期だったオタク男の名前。


 芸名のような、あのオタクっぽい風貌には全く似合わない名前であるけれど、なんと本名。


 卒業後研究者の道を歩んだオタクが最近、長年の研究をまとめて出版したものだった。
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