四百年の恋
 「あ、大村か」


 「すみません、構内では携帯は禁止なのに」


 美月姫は急いで、携帯電話をカバンに戻した。


 「……桜の撮影をしていたのか」


 「はい……」


 「開花前から毎日、ここで撮影していなかったか?」


 美月姫が放課後によくここに来て、携帯の操作をしているのを圭介は知っていた。


 こっそりメールをしているのかと思っていたが、桜の撮影をしていたようだ。


 「桜の花が好きなんです。日々の移り変わりをチェックしたくて、毎日こっそり携帯で撮影を」


 「桜が好きなのか」


 「はい。桜を眺めていると、いつも胸が締めつけられそうになるのです。物心ついた頃から」


 眼鏡に三つ編みという、典型的な優等生スタイル。


 一見すると気づかないが、背格好以外にも何気ない仕草に真姫が宿っている少女。


 この少女の心の中には、真姫、そして月光姫の記憶が眠っている。


 それを圭介は、確信しつつある。


 「桜が咲くと、北海道の長かった冬も完全に終わったと感じられるな」


 「開花とともに、私はなぜか急かされるのです」


 「急かされる?」


 「この瞬間を、記録に残しておかなければならないような気がして……」
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