四百年の恋
 「……先生」


 「何だ」


 しばしの沈黙の後、ようやく美月姫が圭介を呼んだ。


 「この前授業中に、清水くんが」


 美月姫の口から清水の名が出るたびに、圭介の鼓動は速まる。


 「清水くんが手にしていた、あの本」


 (『月光姫~』の本のことか)


 さらに圭介は緊張が高まる。


 「……先生の同級生がお書きになったあの本、私も読みました」


 「あ、読んだのか。どうだった?」


 平静を装うのに、圭介は必死だった。


 (まさかあの本を読んで……何か共鳴するものでもあったのだろうか)


 「色々考えさせられました」


 「と言うと?」


 美月姫の言葉の一つ一つに圭介は動揺する。


 まるで子供のように、うろたえるだけ。


 「私には、理解できませんでした」


 予想外な発言。


 「えっ、あの本はかなり入門書的で。大村には簡単すぎる内容な気もするけど」


 「いいえ、内容のことではありません。あの月光姫とかいう姫君」


 美月姫の口から月光姫の名が出ると、圭介はさらに緊張する。


 「私、あの姫君の生き方が、全く理解できませんでした」
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