四百年の恋
***


 「福山くん、この文献知ってる? 研究室で見つけたんだけど」


 「いや、知らないな」


 「江戸時代に書かれた物らしいんだけど」


 「江戸か。それなら知らないはずだ」


 「現代語訳が、出版されていないんだよね」


 「どれ、俺の知識とは異なる文体かもしれないけど、試しに読んでみる」


 福山が文献に目を通した。


 すらすら解読。


 真姫も古文書読解は苦手で、昔の繋がった文字を見るとわけが分からなくて、頭が痛くなる。


 そんな難解な文章を、福山はたやすく読み解き、現代語にして説明してくれる。


 「ほんと尊敬しちゃう。古典の成績良かったでしょ」


 「そうでもなかったよ。漢籍(かんせき)の講義をサボって、よく師匠に叱られたけど」


 「漢籍?」


 「あ、つまり漢文漢文」


 ……今回の発表をきっかけに。


 真姫と福山は、急速に距離を縮めていた。


 福山が聴講する講義のある日に合わせて、相談会。


 授業後二人で図書室に出向いて、遅くなるまで作戦会議。


 終わる頃には辺りは暗くなっているので、帰りは必ず真姫の寮の前まで送ってもらった。


 管理の行き届いた寮なので、入り口には守衛さんもいるし、門の外まで送ってもらえると安心。


 福山は郊外に住んでいるとのことで、真姫を送り届けると、一人暗闇にいつも消えていく。


 「またねー」


 曲がり角を曲がり、見えなくなるまで手を振り続ける。


 ……そんな日々が続いた。


 ますます親密になる二人。


 徐々に大学内でも、噂になり始めるくらいに。
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