四百年の恋
 「吉野先生。勤務時間中に夜の下見ですか?」


 通りすがりの先輩教師が、圭介が見ているパソコンの画面に気がついた。


 「あ、夕映霞!」


 その教師は、聖ハリストス出身。


 夕映霞イコール清水の母親の経営するキャバレーだと知っていたようだ。


 「清水の母親って、夕映霞のママだったのですね」


 圭介は先輩に告げた。


 「え、ええ……。そうなんです。隠していたわけじゃないんですが」


 これまたどうも歯切れが悪い。


 「代表取締役っていうから、会社の社長かと思い込んでいましたが。函館随一の高級キャバレーのママとは」


 圭介は衝撃を受けた。


 華やかな夜の世界の女王。


 その一人息子。


 裕福な生活をしているのも理解できた。


 「吉野先生、ここだけの話なんですが」


 先輩教師が、小声で圭介に喋り始めた。


 「清水の父親の話も、ご存じないですよね」


 (清水の父親?)


 圭介は目を見開いた。


 母親の話以上に、清水は父親の話を避けていた。
< 340 / 618 >

この作品をシェア

pagetop