四百年の恋
 ……。


 「今日、中秋の名月だったんだー」


 福山が函館にまだ土地勘がないと言うので、真姫が行きつけの居酒屋を紹介した。


 「ここ、安くて美味しいんだから」


 飲み放題に加え、海産物の美味しい居酒屋だった。


 「この辺りは昔から、海産物の売買が盛んだったからね」


 乾杯を済ませ、福山がしみじみとメニューを眺めている間に、真姫はジョッキをほとんど飲み干していた。

 
 「強いのは、昔からだね」


 「?」


 「一気飲み」


 その時までにジョッキは、空っぽになっていた。


 「あはは……。飲み方が豪快で、男みたいってよく言われるの」


 「外見はお姫様なのに」


 「やめてよ、お世辞は。おだててもおごりませんからね」


 「お世辞じゃないよ、花里さんは……」


 「私ね、生物学上はなぜか女だけど、性格は男だってよく言われるんだ」


 「そうかな?」


 「うん。特に吉野くんなんて、大学仲間の温泉旅行の際、私に嘘ついて男湯を案内したんだよ」


 「……あいつはだめだ。悪ふざけにも程がある。このままじゃ花里さんにいずれ危害を及ぼすかもしれない」
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