四百年の恋
 鳴り響く読経。


 圭介は目を閉じたまま、祈りを捧げ続ける。


 しかしいつの間にか、読経が教会の鐘の音にかき消されていく。


 この辺りに教会はない。


 キリスト教系の学校に勤務している仕事柄、年中教会の鐘が響き渡る場所にいるので、耳の奥に音が染み付いているのだろうと考えた。


 (これも一種の、職業病かな……)


 圭介は祈りを捧げ、式典の最後に花を手向けた。


 喪服姿の同期の仲間たちが、周囲でそれぞれ祈りを捧げている。


 時期は夏至直前。


 晩春から初夏へと季節はうつろいゆく。


 学園周辺は今度は薔薇の季節になっているが、この辺りには花がなく、木々の澄んだ香りが辺りを包んでいる。


 ……昨夜の飲み会の席。


 大学の同期の大部分が一年に一度、必ず集う場。


 もちろんこの日の慰霊祭のための集まりなのだけど、前日の飲み会と化した同期会を皆楽しみにしていた。


 「吉野、お前は未だに……」


 久しぶりに顔を合わせた同期の男に訊かれた。


 今でも真姫を想っているのか、と。


 「……」


 無言は是認の証。
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