四百年の恋
 「先生、今だけは見逃してね」


 校舎内、携帯電話は操作禁止。


 とはいえ圭介にも、止められるような雰囲気ではなかった。


 清水は片手で携帯を操作して、どこかに発信した。


 「あ、水上。緊急事態発生。本意じゃないんだけど、幹事長の力を借りなければならないっぽい」


 (水上って確か、清水くんの従者のような人?)


 一度美月姫は校門の前で、運転手付きの高級外車で清水を迎えに来た水上を目にしたことがある。


 (もしかして丸山幹事長の権力を使って犯人を見つけ出し、仕返しするつもりなんだろうか?)


 清水は普通の高校生ではない。


 父親は与党幹事長の、丸山乱雪。


 隠し子とはいえその息子ならば、幹事長の権力を駆使できても不思議ではない。


 事実、丸山の子分の一人(水上)が従者のような存在で、始終清水の回りに待機しているのだから……。


 清水は通話内容を聞かれたくなかったのか、小屋の前から歩き去った。


 美月姫はまた、無言で見送った。


 その背中はますます、別世界の存在のように感じられた。
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