四百年の恋
 「その女の人、きっとセンセーを愛していたんだよ」


 「え?」


 「だから苦しんだんだよ」


 「清水……?」


 わずか17歳の、福山と同じ顔と声の教え子に予想外のことを言われ、圭介は明らかに動揺していた。


 「なぜ……お前がそんなこと判る?」


 自分に哀れみを感じて、適当なことを言っているだけのかもしれないと、圭介は最初考えた。


 「だってセンセーのこと愛してなかったら、そこまで苦しむ理由がないじゃん」


 「あいつは前世に愛した男だけを想い続け、俺はただの代用品。……だから捨てる時もたやすく」


 「本当にそれだけだったと思う?」


 「他に何があるっていうんだ?」


 「その女の人。前世の恋人を未だに愛し続けてはいたのだけど、新たにセンセーのことも愛し始めていたんだよ。だから怖かったんだ」


 「怖かった?」


 「徐々に過去が、新たな記憶に侵食されていくことが」


 「もし仮に俺を愛してくれていたのなら、なぜ俺を最も苦しめる結末を彼女は選んだんだ? おかげで俺はあの日から、」


 「その女の人は、もっと苦しかったんだと思うよ。センセーを愛すればこそ」


 「どんなに苦しかったとしても……そばにいてほしかった。彼女はそれを拒んだのだから、きっと俺は」


 愛されてはいなかった。


 圭介はその呪縛から逃れられない。
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