四百年の恋
***


 「大学は、あっちの方角。そのちょっと右側が、五稜郭のある辺り」


 「光の中に埋もれているね」


 二人はロープウェーで、夜の函館山の展望台に来ていた。


 秋の夜風が、かなり肌寒い。


 「亀田(かめだ)は?」


 「亀田町は、光の途絶えたあの辺りよ」


 真姫は、街の灯りがなく真っ暗な部分を指差した。


 亀田町とは、函館市北端の丘陵地帯。


 徐々に標高が上がっていく。


 「じゃ、松前はあっちだね」


 福山は西の方角を見た。


 距離があるので、松前町の灯りまでは見えないが……。


 「太平洋を見降ろせる方へ行こう」


 二人は南側に移動した。


 海は真っ暗で、沖合いにイカ釣り船の強烈な光が輝いている。


 「真姫、覚えてる?」


 「何を?」


 「ここに登って、海を見つめたあの日々を」


 「え? 大学に合格して函館に来てから、何度か函館山には登ったけど……。昼間も夜間も」


 (だけど、海を見つめていたのはいつのこと?)


 第一福山とここに来たことなど……。


 すると、


 「太閤殿下(たいこうでんか)に貢物を献上するために、京の都へ出向いた私を思い、姫は日々ここで海を眺めていたと聞いているが」
< 44 / 618 >

この作品をシェア

pagetop