四百年の恋
 (丸山幹事長……)


 美月姫も硬直していたが、美月姫の父もまた言葉を失っていた。


 父も職場では役職を持つ存在。


 だがそんな父親が、この丸山乱雪の前では子供のように見えてしまうのだと美月姫は感じた。


 生まれながらに「支配する側」として選ばれた人間とそれ以外との間には、決定的な差異があるのだということを思い知らされたのだった。


 「紫(むらさき)、その方たちは?」


 「優雅の高校の同級生と、その親御さんたちらしいです」


 紫と呼ばれた優雅の母は、丸山幹事長にこう説明した。


 「優雅の同級生か」


 「はい、幹事長」


 父親なのに優雅は父とは呼ばず、役職名の「幹事長」と呼んだ。


 「どうも。優雅がいつも世話になっているね」


 丸山に引き寄せられるかのように、美月姫は手を差し伸べ、握手をした。


 「これはこれは。清楚で聡明そうなお嬢さんだ」


 丸山は真っすぐ美月姫の目を見て、そう告げた。


 この夜の美月姫は高級中華料理店に出かけるとあって、落ち着いた色の外出用のワンピースを着用していた。


 目にはコンタクト、髪は学校に行く時のような三つ編みにはせず、垂らして一箇所だけ縛って中央付近でまとめていた。


 「あ、ありがとうございます……」


 美月姫は丸山に気圧されるままだった。


 清楚で聡明と誉められても、実は地味で田舎くさいと思われているだけなのではと勘ぐってしまった。


 そして丸山は、美月姫にこう述べた。


 「卒業まで、優雅をよろしく頼むよ」
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