四百年の恋
 「ははは……。いつもテレビカメラに追い掛け回されているからな」


 丸山は余裕の表情で、美月姫の両親や叔父夫婦に対応した。


 「どうだったかね、ここの料理は」


 「は、はい。とても美味しかったです」


 父は相変わらず緊張している。


 「ここの支配人は、私も懇意にしている。これからも是非この店を頼むよ」


 「それはもちろん」


 「さて、お近づきの印に……」


 丸山は父親が手にしていた会計伝票を取り上げた。


 父親は何が起こったのか分からず、なすがままだった。


 「幹事長、なにをなさいます」


 父から奪った伝票を、丸山はそのまま会計のレジへと持って行った。


 「気になさるな。いつもお嬢さんに優雅がお世話になっている、ささやかなお礼だ」


 「ですがそんな」


 「心配無用」


 丸山は強引に支払いを始めた。


 だが自ら財布を出さず、


 「水上」


 迎えに来ていたの後援会事務所の水上を呼ぶと、彼は黙って財布の中からクレジットカードを出した。


 「公職選挙法の問題があるから、念のためだ。買収だとか抵抗勢力に付け込まれては厄介だからな」


 「買収だなんて、まさか」


 カードの名義は水上とはいえ、出所は丸山のお金である。


 水上は二つの伝票にサインを済ませ、二つの家族はそれぞれ店を出た。


 「ではまたいずれ」


 丸山乱雪一行は、運転手つきの高級外車に乗って去って行った。


 美月姫と両親、叔父夫婦は黙って見送るだけだった。
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