四百年の恋
 「何をバカな」


 圭介はあり得ないといった表情で苦笑するのだけど、静香のまなざしは真剣だった。


 (本気で、俺が大村に惚れるとでも? それが原因で俺は若い二人を無理矢理引き裂き、大村を我がものにするとでも?)


 仕事をクビになるような思慮なき振る舞い、するわけがないと言い放つも。


 心のどこかで、真姫との果たせなかった愛を再現できるのならと願っている自分が存在するのも事実。


 それを静香に見抜かれているのかもしれない。


 「……」


 この女を愛することができたら、どんなに幸せか。


 静香に会うたびに圭介は深く感じる。


 綺麗で学歴もあり立派な仕事を持ち、申し分のない女。


 しかも自分のことを深く想ってくれる、この上ない女を愛することができるのなら、どんなに楽だろう。


 それでも圭介は愛せなかった。


 真姫への消えることのない思慕ゆえ。


 そして最近は。


 新たに芽生え始めた、再会の期待に心踊るがゆえ。
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